●ROOM No.14(2008年7月)
「生きて還ること」
「海猿」の劇場版+ドラマ全巻を一気に観ました。そして、この作品の一番大きなテーマを私なりに考えてみました。それは間違いなく「(海上保安官自身が)生きて還ること」(作品中の主人公のセリフ)でした。海上保安官にも待っている人がいる、愛する人がいる。だから要救助者のために死んでしまってはならない。作品の中では自分の命も顧みず、とんでもなく危険な現場に救助に向かう主人公たちの姿がカッコよく描かれていましたが、彼らは要救助者だけでなく自分の命を守るために、想像を絶する訓練を自らにも課していたのです。

 さて、中国で起きた四川大地震。亡くなられた方々には心から哀悼の意を捧げるとともに、被災者の皆様には一日も早い復興を祈りますが、5月19日付の某新聞に、この地震に関する記事で、園児を助けようとして生き埋めになり亡くなられた、三十才台のまだ若い女性幼稚園教諭の記事が掲載されていました。目にされた方も多いかと思います。今回園舎の下敷きになってしまった先生は、数人の子供たちを抱えて救助した後、なおも崩れかけている保育室の中に残された子供たちを助けるために躊躇せず飛び込んでいったとありました。そしてその後建物は崩れ落ち、二度と帰らぬ人となってしまったというのです。
 今回の彼女のように非常に大きな「勇気」は、通常、突然要求される場合がほとんどです。そういった場面に遭遇した時に、私たちは自分の中にある「勇気の量」を知ることになるのでしょう。もとから死ぬつもりではなく、きっと自分も生きて、子供たちも助ける…… そんなつもりだったはずの彼女が持っていた勇気は残念な結果になってしまったとは言え、これ以上ないほど大きなものでした。死んでしまうという結果は別として、今の日本の保育者の中に彼女と同じ状況で、彼女と同じ行動を示せる人が一体何人いるのか? この問いを自分自身に向けてみても明確な答えは出せません。目の前で線路に落ちた人を一瞬の判断で助けようとする人などもそうですが、このように瞬間的に必要となる時、自分が持っている「勇気」はやはりそのときになってみなければ結局わからないものだと思うからです。しかし、海上保安官の日常訓練のように、常日頃からの心の準備、心構えの鍛錬はやはり必要です。今回の事例は大きな代償とともに、そのことを私たちに教えてくれました。

 それにしても、他人の子供を預かる職業に携わっている人にとって、「わが子のように子供たちを愛する」「(自分の)命に代えても(他人の)子供を守る」。言うのは簡単ですが、実際に行うことがいかに難しいことか。子供をお持ちの方々には余計にその気持ちが良くわかることでしょう。「海猿」のテーマ「生きて還ること」というセリフと同時に、次の言葉をかみ締めながら、隣国の立派な先生のご冥福を祈りたいと思います。

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みぞけんまん
 みなさん、こんにちは! みぞけんまんです。
 このコーナーは、多くの対象の方(子供に関係する方全て)に気軽に読んでいただこうと思いまして、あれこれと考えた結果、特に親しみやすい「映画」や「本」などを切り口にしながら、あくまでアメリカンに、シュガー&ミルクたっぷり?にお伝えし、「全ての道は私立園に通ず」を実証していこうとするものです。
 みなさん、どんどん遊びに来てください! このページを通して、仕事中だけでなくプライベートな時間にも「ラフに」、しかしながら「常に」、子供たちのこと、保護者のことが考えられるような感性を身につけられたら(学べたら)、どんなにすばらしいことでしょう。そんな学びの部屋へご招待します。
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著作紹介
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ためのトラブル・シューティング集』
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