●ROOM No.16(2008年9月)
「鉄道員(ぽっぽや)」
 前回は「親想う心に勝る親心なし」が結論でしたが、今回は『鉄道員』という高倉健主演の映画から「子想う心に勝る子心」についてです。この映画は私の邦画ベスト1ともいうべき作品で、今まで何度観ても感動の新しい珍しい映画なのですが、秀逸なのはその物語の視点です。親が子供を想う視点で製作された映画は数多くありますが、この作品のように子供の視点から親への思いを描ききった作品は寡少でしょう。原作は希代のストーリーテラー浅田次郎です。
 作品のクライマックスは、まもなく廃線になる北海道のローカル線の駅長である佐藤乙松(高倉健)が、死ぬ直前の数日間に経験したわが子、雪子との物語です。実は生まれてすぐ、赤ちゃんの頃死んでしまったこの雪子が、小学1年生、中学生、高校生に姿を変えて3日間、高倉健の前に現れるのです。そこでなんともいえない親孝行をしてくれるのですが……。まだ観たことのない人にとっては、ネタバレになってしまいますのでこれ以上は書きたくても書けませんが、この映画から私は「親孝行」とは何かということについて深く考えさせられました。
 それは、親にとって「よい子」というのはどういう子供かということから始まりました。私は悪戯もたくさんしましたし、家事手伝いなんかもしないで遊んでばかりいましたが、成人してから、そんな自分の子供の頃を思い出したときに、自分の父や母にとって自分はあまり「よい子」ではかったのではないか? などと思ったりしました。特に自分の父が死んだ直後はそのことについてしばらく考えたものです。
 しかし、父親の生前の言葉を思い出しながら一つの結論にたどり着きました。それは、子供というのは子供らしくいつもニコニコしてくれていたらそれでいい。親孝行なんてそれだけで十分だし、それ以上の親孝行なんてないんだ、ということでした。
 そういえば私の子供も、私とそっくりで勉強もしないで遊んでばかりでしたが、私が夜遅く仕事から帰ったときに、すやすや寝ている寝顔を見るだけで、「よ〜し、明日もがんばるか!」という気持ちになりましたし、玄関にちょこんと並んでいる小さな靴を見ただけで不思議な元気が湧いてきたものです。
 世の中の子供たちには、「みんなは良い子になろうなろうとして無理することなんかない。みんなはただ元気にニコニコしているだけでいい。それだけでお父さんやお母さんは十分、元気になれる。それだけでみんなはお父さんお母さんにとって十分良い子なんだ」と声を大きくして伝えたいですね。そして、世界中の子供は、一生分くらいの親孝行をすでに自分が子供の頃にし終わっているんだということも。皆さんもかわいいわが子を見てそうは思いませんか?
 まさにこの「鉄道員」という映画の中で主人公の子供が見せてくれるファンタジーな姿は、存在自体が親孝行だということを教えてくれます。北海道の幻想的な冬景色と相まって、私にとって一生忘れられない映画になりました。

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みぞけんまん
 みなさん、こんにちは! みぞけんまんです。
 このコーナーは、多くの対象の方(子供に関係する方全て)に気軽に読んでいただこうと思いまして、あれこれと考えた結果、特に親しみやすい「映画」や「本」などを切り口にしながら、あくまでアメリカンに、シュガー&ミルクたっぷり?にお伝えし、「全ての道は私立園に通ず」を実証していこうとするものです。
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